系統
系統:  BUF/Mna 
キーワード:  胸腺腫、胸腺増大、QTL、筋萎縮、ryanodine receptor 抗体、腎糸球体硬化症様病変 
由来:  米国 Biological Associates 社より導入され、名古屋市立大学病理学教室で維持されていたクローズドコロニーBuffalo系ラット由来。名古屋大学病理学教室、松山らが、兄妹交配により近交系化、BUF/Mna 系統を確立 
表現型・病態:  BUF/Mna 系統の胸腺腫の発生率は12ヶ月齢で100%であり(Matsuyama et al., 1975)、胎齢15日のBUF/Mnaラットの胸腺をACIヌードラットへの移植すると、18ヶ月後には移植胸腺は全例で胸腺腫となる。胸腺腫の上皮細胞はドナー由来のBUF型、介在するリンパ球は宿主由来のACI型であったことから、BUF/Mna における胸腺腫の発生は、胸腺上皮細胞由来であることが確認された (Taguchi et al., 1992)。ACI系統とのF1、F2、戻し交配ラットにおける胸腺腫発生率の解析から、BUF/Mna系統には優性の主感受性遺伝子(Tsr-1, thymoma susceptible gene of rat-1)が、ACI 系統には修飾遺伝子が存在することが示唆された (Matsuyama et al., 1986)。  胸腺腫とは別に、BUF/Mnaラットでは、他の系統に比べ胸腺のサイズが大きい。胸腺重量、胸腺係数(=胸腺重量/体重)を、WKY系統とのF1、戻し交配ラットにおいて測定した結果、胸腺増大遺伝子 (Ten, thymus enlargement) は少なくとも2個存在することが推測された。また、胸腺切片における皮質と髄質の面積比から、胸腺の増大は主として皮質増大によっていることが判明した。  N-propyl-N-nitrosourea (PNU) 誘発発がん実験において、BUF/Mna 系ラットはT細胞リンパ腫感受性を示す。リンパ腫嫌発系のWKY/Ncrjとの交配実験により、BUF/Mna 系ラットが有するT細胞リンパ腫感受性遺伝子座 (Tls-3, thymic lymphoma susceptible-3) と第14染色体上のGc座位との連鎖が示唆されている (Ogiu et al., 1995)  この他にも、BUF/Mna 系ラットは筋萎縮 (Kato et al., 1982) や腎糸球体硬化症様病変を100%発症する (Kato et al., 1983)。  BUF/Mna 系ラットは胸腺腫だけでなく筋萎縮および腎機能異常も観察され、ヒト胸腺腫おける筋疾患や腎疾患との合併に一致する。尿蛋白は生後12週から発症し、20週までに尿中蛋白量が20mg/mlに達するが、血清蛋白量の減少はなく腎不全になることはない。6ヶ月齢時では全ての動物で糸球体硬化症様病変が観察される。胸腺除去したBUF/Mna 系ラットは腎機能異常が改善されず、これらの異常は胸腺腫発症以外の遺伝的因子が関与していると推定された(Nakamura et al., 1988)。  一方、ACIおよびWKY系ラットとの交雑仔を用いた遺伝解析により、BUF/Mna 系ラットの腎糸球体硬化症の発症には2個の劣性遺伝子が関与していると推定された (Matsuyama et al., 1990)。  生後より運動障害は観察され、その症状は進行性である。悪性高熱感受性 (Malignant Hyperthermia Susceptibility 1; MHS1) の原因遺伝子である ryanodine receptor (RYR1)に対する抗体を用いた免疫学解析により、BUF/Mna 系ラットにおいては骨格筋だけでなく胸腺上皮細胞に ryanodine receptor が発現していること、さらに、血中に抗 ryanodine receptor抗体が存在することが示された (Iwasa et al., 1998)。 
病因(原因遺伝子):  F1交雑仔をACIに戻し交雑することにより作出したバッククロスラット137匹を用いて、Tsr-1遺伝子座の連鎖解析が行われた。137匹中17匹に胸腺腫が発生し、Tsr-1 はラット第7染色体上のマーカーD7Rat21からD7Rat10との間に局在していることが明らかになった (Oyabu et al., 1999)。  胸腺係数を指標としたQTL解析により、Ten-1遺伝子座は第1染色体上のMyl2とD1Mgh11間に、Ten-2は第13染色体上のSyt2とD13N2間にマッピングされた (Murakumo et al., 1996, Toyota et al., 1998)。また、野生ラット(MITE)との交配実験により、胸腺増大を抑制する遺伝子座 (Tsu-1, Thymus, suppressive) が第3染色体Catから4.0cM染色体遠位側にマップされた (Sharma et al., 1997)。  WKY系統との戻し交雑仔を用いて、蛋白尿の発症とマイクロサテライトマーカーとの連鎖解析が行われた。その結果、蛋白尿発症感受性遺伝子 (Proteinuria, Pur-1) は第13染色体上のマーカーD13Mgh3とD13Mgh4との間、約3.7cMの領域にマップされた (Murayama et al., 1998)。  正常系統 (ACI/NMs, WKY/NCrj, BDIX) との交配実験から、BUF/Mna 系ラットにおける筋萎縮の発症は2つの常染色体上の優性遺伝子Mas-1とMas-2により決定されていると考えられた(Amo, et al., 1997)。ACI系統とのバッククロスラットを用いた連鎖解析により、Mas-1 は第1染色体にマップされた (Higo, et al., 1998)。 
臨床への応用、有用性:  ヒト胸腺腫瘍には胸腺腫(皮質型、髄質型)、胸腺癌、胸腺カルチノイド、小細胞癌、胚細胞腫瘍、胸腺脂肪腫があるが、BUF/Mna 系ラットは胸腺腫(皮質型)のモデル動物と考えられている。
 蛋白尿を発症した6ヶ月齢 BUF/Mna 系ラットにLEWラットの腎を移植したところ、蛋白尿が一旦解消したが28日後には再び発症した。このことから、BUF/Mna 系ラットラットには血中に発症因子が存在すると推測している (Godfrin et al., 1998)。
 ヒトにおいては胸腺腫と腎疾患、重症筋無力症との合併がしばしば見られる。BUF/Mna 系ラットはこれら病態との関係を解析するための優れたモデル動物であると考えられる。
 悪性高熱はハロセンなどの麻酔薬投与数時間後から急速に起こる体温上昇である。その発症には遺伝性因子が関与しており、遺伝上の欠陥が麻酔剤に対する反応性の異常のみならず、しばしば奇形、筋疾患を伴う。現在までにヒトでは少なくとも6つの遺伝子座がマッピングされており、その中の1つであるMHS1は、ryanodine receptor (RYR1) 遺伝子に変異に起因する。ヒトRYR1遺伝子がマップされている19q13.1領域は、Mas-1がマップされたラット第1染色体とシンテニーが保存されている可能性が高いこと、抗ryanodine receptor 抗体が血中に見出されたこと、筋萎縮を示すことから、BUF/Mna 系ラットにおける筋萎縮感受性Mas-1は ryanodine receptor の異常に起因する可能性が示唆されている。 
維持機関:  藤田保健衛生大学医学部 病理学第二講座 実験動物中央研究所 (1999年6月1日現在) 
文献:  Le Berre L, Godfrin Y, Gunther E, Buzelin F, Perretto S, Smit H, Kerjaschki D, Usal C, Cuturi C, Soulillou JP, Dantal J. Extrarenal effects on the pathogenesis and relapse of idiopathic nephrotic syndrome in Buffalo/Mna rats. J Clin Invest. 2002 Feb;109:491-8. Le Berre L, Godfrin Y, Perretto S, Smit H, Buzelin F, Kerjaschki D, Usal C, Cuturi C, Soulillou JP, Dantal J. The Buffalo/Mna rat, an animal model of FSGS recurrence after renal transplantation. Transplant Proc. 2001 Nov-Dec;33:3338-40. No abstract available. Ezaki T, Oki S, Matsuda Y, Desaki J. Age changes of neuromuscular junctions in the extensor digitorum longus muscle of spontaneous thymoma BUF/Mna rats. A scanning and transmission electron microscopic study. Virchows Arch. 2000 Oct;437:388-95. Ye C, Murakumo Y, Higo K, Matsuyama M. Fine mapping of thymus enlargement gene 1 (Ten1) in BUF/Mna rats. Pathol Int. 2000 Mar;50:185-90. 
執筆者記録:  庫本高志(京都大学)1999年6月1日, TS:4/21/03 
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