系統
系統:  DA/Ham-bg(beige rat) 
キーワード:  ベージュ、Chediak-Higashi 症候群 
由来:  1985 年、浜松医科大学医学部附属動物実験施設のDA 系ラットコロニー中に発見された突然変異体である。DA 系の由来は Dark Agouti からきたという記載はあるが、系統の起源については明確ではない。浜松医科大学医学部には米国ペンシルバニア大学からオーストラリア国立大を経て、1980 年に導入された。1983 年から同大学動物実験施設にて系統維持されてきた近交系であり、同施設で12 代以上経過後のコロニー中の雄1匹に灰色の毛色変異として出現した。 
表現型・病態:  毛色はDA 系ラット本来の野生色では無く、灰色を呈する。メラノサイトやマスト細胞に巨大顆粒を持つ。血中セロトニン量の減少(正常ラットの1/10)および出血時間の延長を認める。セロトニンの静脈内投与により出血時間は正常化される。脾細胞のNK 細胞活性は低下している。雌雄とも繁殖可能。特に縮小条虫に対する易感染性を示す。これらの表現型・病態はヒトの Chediak-Higashi 症候群に相当する。 
病因(原因遺伝子):  第17 染色体上の単一劣性突然変異遺伝子 beige (bg) による。これはヒト Chediak-Higashi 症候群の原因遺伝子CHS のホモログである。ベージュラットの cDNA には578 bp の欠失があり、この欠失によりフレームシフトが起こり、2594 番目のアミノ酸からC 末側を欠失した機能を失うと予測されるBEIGE 蛋白が予測された。また、ベージュラットの染色体DNAでは578 bp の欠失部を構成する3個のエクソンを含む約20 kb の領域を欠失している。この欠失部を含むイントロン内には1個の LINE1 が見い出された。対照的に正常コントロールラットのイントロンには3個のエクソンを挟んで3個の LINE1 が見い出された。このうち最も上流に位置する LINE1 の5’側部位の塩基配列はベージュラットの LINE1 の5’側部位の塩基配列と、また最も下流に位置するLINE1の3’側部位の塩基配列はベージュラットの LINE1 の5’側部位の塩基配列とそれぞれ一致していた。これらのことより、ベージュラットの cDNAでの欠失は2個の LINE1 間での組み換えが原因であることが推測された。また、組み換え/欠失部には、DNAトポイソメラーゼIの認識配列が多数存在し、組み換え時でのこの酵素の関与が推測された。 
臨床への応用、有用性:  ベージュラットはヒトChediak-Higashi 症候群にきわめて類似した表現型・病態を示す。さらにヒトの Chediak-Higashi 症候群と同一の遺伝子に突然変異が証明されたことより、ベージュラットはヒトChediak-Higashi 症候群の真のモデルであることが確認された。ベージュラットはヒトChediak-Higashi 症候群の治療法研究のための良いモデル動物となると考えられる。また、ベージュラットの肥満細胞巨大顆粒をマーカーとして利用できるため、ラット同系肺移植後のグラフト内肥満細胞のturnover に関する研究などにも応用されている。 
維持機関:  浜松医科大学医学部附属動物実験施設 日本エスエルシー株式会社 (2001年5月25日現在) 
文献:  Mori M, Yamasaki K, Nakanishi S, Kitada K, Higuchi K, Namiki C, Hamada S and Serikawa T. A new beige mutant rat ACI/N-Lystbg-Kyo Experimental Animal 52(1):31-36, 2003. Nishikawa, T., Nishimura, M. Mapping of the beige (bg) gene on rat chromosome 17. Exp Anim. 49:43-45, 2000 Ward, DM., Griffiths, GM., Stinchcombe, JC., Kaplan, J. Analysis of the lysosomal storage disease Chediak-Higashi syndrome. Traffic 1: 816-822, 2000  
執筆者記録:  森 政之(信州大学)2001年5月25日, TS:4/21/03 
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