系統
系統:  HAA (Hatano high-avoidance animal) 
キーワード:  学習、内分泌、ストレス、生殖機能 
由来:  1985年に日本チャールス・リバー社より入手したSprague-Dawley系ラットを用いて、シャトルボックス条件回避学習試験を行い、最も高い回避率を示した雌雄と、最も低い回避率を示した雌雄を選抜して交配させた。妊娠雌から得られた次世代児について、再びシャトルボックス条件回避学習試験を行い、高回避系の同腹児からは高い回避率を示した雌雄を、低回避系の同腹児からは低い回避率を示した雌雄を選び、兄妹交配させた。以後、同様の方法で回避学習試験による選抜交配をくり返し、高回避系 (HAA) と低回避系 (LAA) を分離した。現在は、両系とも42世代目のラットを兄妹交配で維持している。 
表現型・病態:  HAAとLAAはシャトルボックス条件回避学習試験の回避率により分離した系統であるが、その他の特性についても検討したところ、水迷路学習能、自発運動量、情動性、初期行動発達あるいは母性行動にも明らかな相違が認められた。また、両系統を内分泌学的に検索した結果、副腎の大きさに明らかな差があり、回避学習試験終了後の血中ACTH濃度がHAAでは高く、LAAでは低いという差が認められた。近年は、ストレスに対する内分泌反応が両系の間で異なっていることが指摘されている。本系統は、発育過程において雌雄ともに春機発動期が異なり、雌では成熟後の性周期、雄では精子の運動性に違いがあることも判明している。 
病因(原因遺伝子):  原因遺伝子は不明であるが、HAAとLAAの正逆交雑F1を作出して、回避学習能、自発運動量および副腎重量について調べた結果、F1雑種の回避学習成績はHAAと同程度になり(完全優性)、自発運動量と副腎重量は両系統の中間値(優性なし)となった。なお、正逆交雑効果はみられなかった。 
臨床への応用、有用性:  記憶や認知の生物学的過程あるいは記憶障害に関する過程を詳細に研究する上で有用なモデル動物になると考えられる。また、ストレスに対する内分泌反応に違いがあることから、ストレス研究にも有用なモデル動物になると考えられる。 
維持機関:  食品薬品安全センター秦野研究所 
文献:  Ohta R, Shirota M, Tohei A, Taya K. Maternal behavior, milk ejection, and plasma hormones in Hatano high- and low-avoidance rats. Horm Behav. 2002 Sep;42:116-25. Sato M, Ohta R, Kojima K, Shirota M. Strain differences in the spontaneous incidence of sperm morphological abnormalities in Hatano rats. J Vet Med Sci. 2002 Apr;64:389-90. Sato M, Ohta R, Kojima K, Shirota M. Differences in sperm motion between high- and low-shuttlebox avoidance rats (Hatano strains). J Androl. 2002 Mar-Apr;23:250-8.  
執筆者記録:  太田亮(食品薬品安全センター), TS:4/22/03 
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