系統
系統:  KDP (Komeda diabetes-prone rat) 
キーワード:  1 型糖尿病、膵島炎、Iddm/kdp1 遺伝子、RT1 u ハプロタイプ、 Komeda non-diabetic (KND) ラット 
由来:  1 型糖尿病のモデル動物 LETL ラットを起源とし、東京医科大学のKomedaらにより糖尿病を高発症する系統として確立された。その際、糖尿病を発症しない Komeda non-diabetic (KND) ラットも同時に確立された。 
表現型・病態:  50日齢以降、性差なく糖尿病を発症し、120日齢時における糖尿病の累積発症率は、両親が発症していた場合で約70%、220日齢時までに約80%に達する。発症個体は全て重度の膵島炎を呈し、発症しなかった個体においても、軽度から中程度の膵島炎が認められる。基本的にLETLラットと同様の病態を示すが、膵島炎はより重度である。また、BBラットでみられるリンパ球減少症は認められない。 膵臓の他、甲状腺、顎下腺、腎臓、下垂体、副腎など様々の臓器にリンパ球浸潤が認められ、自己免疫の症状を呈している。  
病因(原因遺伝子):  KDPラットにおける膵島炎および1型糖尿病の発症には第11染色体上の Iddm/kdp1遺伝子座と第20染色体上のMHC遺伝子座という2つの主要な遺伝子座が関与し、これら2つの遺伝子座によって遺伝的感受性の大部分が規定される。2002年、ポジショナルクローニングによってIddm/kdp1遺伝子の本体がCblb (Casitas B-lineage lymphoma b) 遺伝子におけるナンセンス変異であることが同定された。Cblbの変異はT細胞の異常な活性化を導き、様々の臓器にリンパ球の浸潤を引き起こすなど、自己免疫反応を規定する。一方、KDPラットが有するMHCのRT1 uハプロタイプはラットにおいて広く存在し、膵島炎および1型糖尿病に感受性であることが知られている。このハプロタイプのMHC class II分子は膵β細胞抗原(未同定)に対する結合特性を持ち、膵β細胞抗原に反応するT細胞の活性化を導くと考えられる。このことから、MHCは膵β細胞に対する組織特異性を規定すると捉えることができる。KDPラットではこれら2の要因が揃ったため、膵β細胞に対する自己免疫反応である膵島炎が引き起こされ、膵β細胞が破壊されて最終的に1型糖尿病を発症すると考えられる。 
臨床への応用、有用性:  KDPラットはそのオリジナル系統であるLETLラットと同様に、繁殖性に問題があり、広く研究に供するには、繁殖障害を克服することが不可欠であった。最近、KDPラット系統内においてIddm/kdp1遺伝子座のヘテロ性が見出され、その遺伝子型によって表現型が規定されていることが明らかになった。ヘテロの個体の繁殖性に問題がないことから、現在では、ヘテロ同士の交配で系統を維持し、遺伝子型を判定して研究に用いることが可能である。
KDP ラットは膵島炎の発現にMHCが関与している点については、1型糖尿病のモデル動物として頻用されているNODマウスやBBラットと共通している。一方、糖尿病の発症に性差がないこと、Tリンパ球の減少がないこと等、これらのモデル動物と異なった特徴を有しており、ヒト1型糖尿病の解明に寄与するところが大きいと期待される。
膵臓の他、様々の臓器にリンパ球浸潤が認めらるなど自己免疫を呈していることから、ヒト自己免疫疾患のモデルとしても利用可能と考えられる。
 
維持機関:  東京医科大学動物実験センター (2001年5月25日現在) (株)SLC 
文献:  Kawano, K., Hirashima, T., Mori, S., et al New inbred strain of Long-Evans Tokushima Lean rats with IDDM without lymphopenia. Diabetes 40:1375-1381, 1991. Noma, Y., Mizuno, A., Sato, T., et al Correlation between residualβcell function and age at onset of spontaneous diabetes in Long Evans Tokushima Lean(LETL) rats. Metabolism 41:1379-1385, 1992. Mizuno, A., Iwami, T., Sato, T., et al Cyclophosphamide-induced diabetes in Long-Evans Tokushima Lean rats: influence of ovariectomy on the development of diabetes. Metabolism 42:865-869, 1993. Yokoi N, Kanazawa M, Kitada K, Tanaka A, Kanazawa Y, Suda S, Ito H, Serikawa T, Komeda K. A non-MHC locus essential for autoimmune type I diabetes in the Komeda diabetes-prone rat. J. Clin. Invest. 100:2015-2021, 1997. Komeda K, Noda M, Terao K, Kuzuya N, Kanazawa M, Kanazawa Y. Establishmemt of two substrains, diabetes-prone and non-diabetic, from Long-Evans Tokushima Lean (LETL) rats. Endocr. J. 45:737-744, 1998. Yokoi N, Komeda K, Wang HY, Yano H, Kitada K, Saitoh Y, Seino Y, Yasuda K, Serikawa T, Seino S. Cblb is a major susceptibility gene for rat type 1 diabetes mellitus. Nature Genet. 31:391-394, 2002.  
執筆者記録:  横井伯英(千葉大学)2001年5月25日, TS:4/22/03 
close window to return to the search page.