系統
系統:  NER (Noda epileptic rat) 
キーワード:  てんかん、けいれん、発作、NER 
由来:  NER は、1985年に日本チャールスリバー社から(財)畜産生物科学安全研究所に搬入された Crj:Wistar ラットに自発性の強直 - 間代性けいれん発作を発症するラットが同研究所の野田によって見出され、その形質を選抜対象として近交系化された系統である。開発者の名にちなんで、NER (Noda Epileptic Rat) と命名された。旧名は、GMS ラットであった。 
表現型・病態:  NER は、生後2~3カ月頃に雌雄共ほぼ全例に強直-間代性けいれん発作が発症する。典型的な発作は、突然始まる前肢のもがき行動から wild running/jumping (WRJ) を示し、次いで強直性けいれんに移行して、さらに間代性けいれんを起こす場合と、WRJ から直接間代性けいれんを引き起こし、続いて3~5分間深い睡眠に入り回復する場合とがある。この間、脳波検査では大脳皮質と海馬には強直-間代性けいれん時において、高振幅の棘波群発および多棘波 - 徐波複合が見られ、けいれん発作終了と共に脳波は平坦化し、睡眠より覚醒までこの平坦化は持続する。中枢神経系を含む諸器官において、何ら形態学的変異は見いだされていない。ペンチレンテトラゾールの静脈内接種に対して高いけいれん感受性をもち、放り上げ刺激でけいれん発作を観察することができる。角膜電気刺激によるけいれいん誘発の感受性が高いが、触、音、光、及び耳介電気刺激に対するけいれん誘発性は、対照ラットと比べ有為差はない。  
病因(原因遺伝子):  NER については、複数の対照系統との交配実験が行われ、自発性けいれん発作の遺伝性が調べられた。その結果、強直 - 間代性けいれんは1つの主遺伝子と複数の副遺伝子によって制御されていると推定された。その後、第1染色体上に、この自発性発作に係わる遺伝子としてNer1 がマッピングされた。次いで、放り上げ刺激によって誘発されるけいれん発作に関わる遺伝子をマッピングする目的で、全ゲノムを解析しうる約100個の遺伝多型マーカーを用いて連鎖解析研究が行われ、ラット第3染色体に有為な偏りが見いだされた(Ner2)。しかし、これらの領域の遺伝子が自発性の強直-間代性けいれん発症の主遺伝子であるかどうかを確定するには至っていない。  
臨床への応用、有用性:  NER を3週齢より音刺激(95dB, 8kHz, 毎週1回30秒間)を与えると、6~7 週齢より発作が誘発されるようになり、9週齢以降は安定して発作が誘発する。このような反応性を獲得させた NER に抗てんかん薬を腹腔内投与し、15分後に上記のプライミングに用いた音刺激を与えた。発作が誘発されなかった場合には、5分間隔にさらに2回の同じ音刺激を繰り返した。その結果、カルバマゼピン、パルプロ酸ナトリウム、フェノバルビタール、ジアゼパム、トリメタジオンの抑制効果が高く、フェニトイン、ゾニサミド、およびエトスクシミドの抑制効果は低い。これらの薬剤反応性は他のてんかんモデル動物の反応性とは異なることから、抗てんかん薬の作用機構やてんかん発症機構をより詳細に検討する上で有用なモデルとなろう。

 
維持機関:  (財)畜産生物科学安全研究所 広島大学医学部薬理学教室 (2002年4月8日現在) 京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設 (2002年12月現在) 
文献:  Hanaya R., Sasa, S., Kiura, Y., Ishihara, K., Serikawa, T. and Kurisu, K. Epileptiform burst charges in hisppocampal CA3 neurons of young but not mature Noda epileptic rats (NER). Brain Res., 950:317-320, 2002 Maihara, T., Noda, A., Yamazoe, H., Voigt, B., Kitada, K. and Serikawa, T. Chromosomal mapping of genes for epilepsy in NER: A rat strain with tonic-clonic seizures. Epilepsia, 41 (8): 941-949, 2000. Sejima, H., Ito, M., Kishi, K., Noda, A. and Serikawa, T. Regional excitatory and inhibitory amino acid concentrations in Noda epileptic rat (NER) brain. Brain Develop, 21: 382-385, 1999. Jinde, S., Masui, A., Morinobu, S., Takahashi, Y., Tsunashima, K., Noda, A., Yamada, N. and Kato, N. Elevated neuropeptide Y and corticotropin-releasing factor in the brain of a novel epileptic mutant rat: Noda epileptic rat. Brain Res., 30 (2): 115-126, 1999. Iida, K., Sasa, M., Serikawa, T., Noda, A., Ishihara, K., Akimitsu, T., Hanaya, R., Arita, K. and Kurisu, K. Induction of convulsive seizures by acoustic priming in a new genetically defined model of epilepsy (Noda epileptic rat: NER). Epilepsy Res, 30 : 115-126, 1998 Noda, A., Hashizume, R., Maihara, T., Tomizawa, Y., Ito, Y., Inoue, M., Kobayashi, K., Asano, Y., Sasa, M., Serikawa, T. NER rat strain, a new type of genetic model in epilepsy research. Epilepsia, 39 (1): 99-107, 1998. Sasa、M.,Hanaya, R., Iida, K., Akimitsu, T., Kurisu, K., Noda, A., Kobayashi, K., Asano, Y., Sasa, M. and Serikawa, T. A novel epilepsy animal model (NER). Nihon Shinkei Seishin Yakurigaku Zasshi, 17(1): 35-38, 1997 (in Japanese)  
執筆者記録:  芹川忠夫(京都大学)2002年4月8日, TS:4/24/03 
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