系統
系統:  ZI (zitter rat, WTC.ZI-zi) 
キーワード:  振戦、弛緩性麻痺、海綿状脳変性、ミエリン形成異常、Attractin、アグーチ 
由来:  zitter ラットは1978年ハノーバ(ドイツ)の実験動物中央研究所の SD ラットコロニーから振戦を示すミュータントとして見出された (Rehm et al., 1982)。1983年、京都大学医学部附属動物実験施設に導入され、兄妹交配により近交化、ZI/Kyo として確立された。WTC.ZI-ziは、WTC 系統を対照系統とするために、ZI/Kyo 系統をWTC 系統に11回戻し交配することにより作出されたコンジェニック系統である。他に zitter rat には、京都大学から東京大学医科学研究所、(財)動物繁殖研究所を経て獨協医科大学の山岡らによって維持されている系統がある。この系統は1999年に京都大学に導入され系統維持されている。  
表現型・病態:  振戦は離乳時頃から観察され、5ヶ月齢以上になると後駆の弛緩性麻痺を呈する。中枢神経系における主な特徴は空胞形成と hypomyelinationである (Kondo et al., 1991)。空胞は2週齢時より橋および視床に出現し、加齢と共に中枢神経系全体で散見される。空胞はミエリンの形成異常を伴ったaxon 周辺に観察されるものと、オリゴデンドロサイトもしくはアストロサイトの細胞質内に認められるものとがあり、炎症細胞やウイルスは認められない (Kondo et al., 1995)。WTC.ZI-zi コンジェニック系統は zitter ラットに比べて、行動学的にも病理学的にも重度となり、遺伝的背景が病態に変化を与えることが示された。また、zi遺伝子座と連鎖する遺伝子マーカーを用いた解析から、WTC.ZI-zi コンジェニック系統において残存しているzitterラット由来のゲノム領域は染色体全体の0.65%であることが示された (Kuramoto et al., 1998)。 
病因(原因遺伝子):  zi 遺伝子座はラット第3染色体 3q35 に位置するプリオン (Prnp) 遺伝子座と近接していることが連鎖解析より明らかとなった。Prnpはヒト遺伝性の脳変性疾患 Creutzfeldt-Jakob Disease (CJD)、Gerstmann-Straussler Disease (GSD) の原因遺伝子であることから、zi遺伝子の候補遺伝子と考えられた。しかしながら、zitterラットでは Prnp 遺伝子の発現および塩基配列に変異は認められず、Prnp が原因遺伝子そのものではないと結論された(Gomi et al., 1994, Kuramoto et al., 1994)。ポジショナルクローニングとそれに続くトランスジェニック動物を用いた回復試験から、zi遺伝子はAttractin (Atrn) 遺伝子イントロン12のスプライスドナーサイト内の8塩基対欠失であることが判明した (Kuramoto et al., 2001)。正常Atrn遺伝子はイントロン24でのalternative splicingにより、膜型と分泌型アトラクチンをコードするmRNAに転写される。zi/ziラットでは、イントロン12内の8塩基対欠失により、正常なスプライシングが行われず、両mRNAの発現量が著しく減少している。 
臨床への応用、有用性:  ヒトや家畜において未解明の部分の多い海綿状脳症の優れたモデル動物である。自然発症てんかんラット (spontaneously Epileptic Rat, SER) はzitterラットと tremor ラットとの交配から育種されたダブルミュータントである。SERにおいては、tremor ラットに見られなかったてんかん発作が観察されることから、zi 遺伝子は SER におけるてんかん発作発症にも関与していると考えられている。 
維持機関:  京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設 (2002年12月現在) 国立がんセンター研究所発がん研究部 獨協医科大学 鳥取大学医学部 (2002年5月17日現在)  
文献:  T. Kuramoto, K. Kitada, T. Inui, Y. Sasaki, K. Ito, T. Hase, Y. Ogawa, K. Nakao, G.S. Barsh, M. Nagao, T. Ushijima, and T. Serikawa Attractin/Mahogany/Zitter plays a critical role in myelination of the central nervous system. Proc Natl Acad Sci USA, 98 (2): 559-564, 2001 Kuramoto, T., Yamasaki, K., Kondo, A., Nakajima, K., Yamada, M., and Serikawa, T. Production of WTC.ZI-zi rat congenic strain and its pathological and genetic analyses. Exp Anim, 47: 75-81, 1998 Kondo, A., Sendoh, S., Miyata, K., and Takamatsu, J. Spongy degeneration in the zitter rat: ultrastructural and immunohistochemical studies. J Neurocytol, 24: 533-544, 1995 Gomi, H., Ikeda, T., Kunieda, T., Itohara, S., Prusiner, S. B., and Yamanouchi, K. Prion protein (PrP) is not involved in the pathogenesis of spongiform encephalopathy in zitter rats. Neurosci Lett, 166: 171-174, 1994 Kuramoto, T., Mori, M., Yamada, J., and Serikawa, T. Tremor and zitter, causative mutant genes for epilepsy with spongiform encephalopathy in spontaneously epileptic rat (SER), are tightly linked to synaptobrevin-2 and prion protein genes, respectively. Biochem Biophys Res Comm, 200: 1161-1168, 1994 Kondo, A., Sato, Y., and Nagara, H. An ultrastructural study of oligodendrocytes in zitter rat: a new animal model for hypomyelination in the CNS. Journal of Neurocytology, 20: 929-939, 1991 Rehm, S., Mehraein, P., Anzil, A. P., and Deerberg, F. A new rat mutant with defective overhairs and spongy degeneration of the central nervous system: clinical and pathologic studies. Lab Anim Sci, 32: 70-3, 1982  
執筆者記録:  庫本高志(京都大学)2002年5月17日, TS:4/30/03 
close window to return to the search page.