Update:May/25/2001

DA/Ham-bg(beige rat)

執筆者:森 政之(信州大学医学部附属加齢適応研究センター脈管病態分野)

 

1. キーワード

ベージュ、Chediak-Higashi 症候群

 

2. 由来

1985 年、浜松医科大学医学部附属動物実験施設のDA 系ラットコロニー中に発見された突然変異体である。DA 系の由来は Dark Agouti からきたという記載はあるが、系統の起源については明確ではない。浜松医科大学医学部には米国ペンシルバニア大学からオーストラリア国立大を経て、1980 年に導入された。1983 年から同大学動物実験施設にて系統維持されてきた近交系であり、同施設で12 代以上経過後のコロニー中の雄1匹に灰色の毛色変異として出現した。

 

3. 表現型・病態

毛色はDA 系ラット本来の野生色では無く、灰色を呈する。メラノサイトやマスト細胞に巨大顆粒を持つ。血中セロトニン量の減少(正常ラットの1/10)および出血時間の延長を認める。セロトニンの静脈内投与により出血時間は正常化される。脾細胞のNK 細胞活性は低下している。雌雄とも繁殖可能。特に縮小条虫に対する易感染性を示す。これらの表現型・病態はヒトの Chediak-Higashi 症候群に相当する。

 

4. 病因(原因遺伝子)

第17 染色体上の単一劣性突然変異遺伝子 beige (bg) による。これはヒト Chediak-Higashi 症候群の原因遺伝子CHS のホモログである。ベージュラットの cDNA には578 bp の欠失があり、この欠失によりフレームシフトが起こり、2594 番目のアミノ酸からC 末側を欠失した機能を失うと予測されるBEIGE 蛋白が予測された。また、ベージュラットの染色体DNAでは578 bp の欠失部を構成する3個のエクソンを含む約20 kb の領域を欠失している。この欠失部を含むイントロン内には1個の LINE1 が見い出された。対照的に正常コントロールラットのイントロンには3個のエクソンを挟んで3個の LINE1 が見い出された。このうち最も上流に位置する LINE1 の5’側部位の塩基配列はベージュラットの LINE1 の5’側部位の塩基配列と、また最も下流に位置するLINE1の3’側部位の塩基配列はベージュラットの LINE1 の5’側部位の塩基配列とそれぞれ一致していた。これらのことより、ベージュラットの cDNAでの欠失は2個の LINE1 間での組み換えが原因であることが推測された。また、組み換え/欠失部には、DNAトポイソメラーゼIの認識配列が多数存在し、組み換え時でのこの酵素の関与が推測された。

 

5. 臨床への応用、有用性

ベージュラットはヒトChediak-Higashi 症候群にきわめて類似した表現型・病態を示す。さらにヒトの Chediak-Higashi 症候群と同一の遺伝子に突然変異が証明されたことより、ベージュラットはヒトChediak-Higashi 症候群の真のモデルであることが確認された。ベージュラットはヒトChediak-Higashi 症候群の治療法研究のための良いモデル動物となると考えられる。また、ベージュラットの肥満細胞巨大顆粒をマーカーとして利用できるため、ラット同系肺移植後のグラフト内肥満細胞のturnover に関する研究などにも応用されている。

 

6. 維持機関

浜松医科大学医学部附属動物実験施設

日本エスエルシー株式会社

 

7. 文献

Nishimura, M., Inoue, M., Nakano, T., Nishikawa, T., Miyamoto, M., Kobayashi, T. , Kitamura, Y.

Beige rat: A new animal model of Chediak-Higashi syndrome.

Blood 74: 270-273, 1989

 

Jippo-Kanemoto, T., Kasugai, T., Yamatodani, A., Ushio, H., Mochizuki, T., Tohya, K., Kimura, M., Nishimura, M., Kitamura, Y.

Supernormal histamine release and normal cytotoxic activity of beige (Chediak-Higashi syndrome) rat mast cells with giant granules.

Int. Arch. Allergy Appl Immunol. 100: 99-106, 1993

 

Ozaki, K., Maeda, H., Uechi, S., Yamate, H., Nishikawa, T., Nishimura, M., Narama, I.

The presence of giant granules in the juxtaglomerular cells of beige rats may affect plasma renin activity and blood pressure.

Exp. Mol. Pathol. 61: 221-229, 1994

 

Ozaki, K., Maeda, H., Nishikawa, T., Nishimura, M., Narama, I.

Chediak-Higashi syndrome in rats: Light and electron microscopical characterization of abnormal granules in beige rats.

J. Comp. Pathol. 110: 369-379, 1994

 

Ozaki, K., Maeda, H., Uechi,S., Yamate, H., Nishikawa, T., Nishimura, M., Narama, I .

The presence of giant granules in the juxitaglomerular cells of beige rats may affect plasma renin activity and blood pressure.

Exp. Mol. Pathol. 61: 221-229, 1994

 

Ishih, A., Nishikawa, T., Nishimura, M.

Beige (bg) rat: Its usefulness for examining the relation of mastocytocis to worm loss shown in DA strain infected with Hymenoleptis diminuta.

Transplant. Proc. 27: 1546-1547, 1995

 

Ozaki, K., Nishikawa, T., Nishimura, M., Narama I.

Spontaneous skin lesions in beige rats (Chediak-Higashi syndrome of rats).

J. Vet. Med. Sci. 59: 651-655, 1997

 

Mori, M., Nishikawa, T., Higuchi, K., Nishimura, M.

Deletion in the beige gene of the beige rat owing to recombination between LINE1s.

Mamm. Genome 10: 692-695,1999

 

Nishikawa, T., Nishimura, M.

Mapping of the beige (bg) gene on rat chromosome 17.

Exp Anim. 49:43-45, 2000

 

Ward, DM., Griffiths, GM., Stinchcombe, JC., Kaplan, J.

Analysis of the lysosomal storage disease Chediak-Higashi syndrome.

Traffic 1: 816-822, 2000