IGER
執筆者:芹川忠夫(京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設)
1. キーワード
てんかん、けいれん、発作、IGER
2. 由来
IGER
は、元関西医科大学の伊原らによって開発された自然発症性に白内障を起こす
Ihara's cataract rat (ICR)
から、自発性に全身性けいれん発作を発症する個体を選抜して近交系化された系統である。現在、滋賀医科大学の天野らによって維持され、病態解析がなされている。
3. 表現型・病態
IGER の雄は、生後約8週齢頃に過敏傾向、10-12週頃に顔面と顎のミオクローヌスとイヌが体の水を切るような動作が認められ、5カ月頃より外的刺激を加えることなく自発性に全身性のけいれんを発症する。その典型的な発作型は、後肢で立ち上がった状態での前肢のクローヌスに始まり、次いで後方への転倒、全身の強直-間代性けいれん(通常
15-20秒)が起こり、その後は活動が低下してうとうとした状態になる。脳波検査では、けいれん時に高振幅の棘波および棘波-徐波複合が認められ、これは海馬と皮質を比べると常に海馬の発火が先行すると報告されている。この発作は、音、光、前庭部刺激を加えても誘発されない。けいれん発作は加齢と共にその頻度を増加し、発作重積状態を呈し死にいたるものもある。このけいれん発作の発症率には性差があり、雄ではほぼすべての個体が発症するが、雌の発症率は約20%である。形態学的には、海馬体のCA1領域とCA3領域における錐体細胞層の配列異常やCA1領域のStratum
radiatum
における異常な神経細胞の集簇が見られる。てんかん発作を頻回に起こしたラットでは、海馬・皮質領域
にグリオーシスや、歯状回内分子層に苔状線維の発芽を示唆する所見が報告されている。
4. 病因(原因遺伝子)
IGER
のてんかん形質と脳に見出された形態学的変化に関する遺伝解析の報告はなされていない。IGER
の白内障については、上染色体性の劣性遺伝形質であると推定されている。
5. 臨床への応用、有用性
6. 維持機関
滋賀医科大学病理学教室
ICR 基礎研究所
7. 文献
Amano, S., Ihara, N., Uemura, S., Yokoyama, M., Ikeda, M.,
Serikawa, T., Sasahara, M., Kataoka, H., Hayase, Y. and Hazama, F.
Development of a novel rat mutant with spontaneously
limbic-like seizures.
Am J Pathol, 149 (1): 329-336, 1996